「大学受験を回避したいから中学受験」は正解か?
「うちの子には、過酷な大学受験を経験させたくない」
「関関同立の附属校に入って、青春を謳歌してほしい」
大手学習塾で働いてたときにこのようなお話を聞くことがありました。
親御さん世代が経験した厳しい受験戦争の記憶や、昨今の目まぐるしく変わる大学入試制度への不安から、エスカレーター式に有名大学へ進学できる「附属校ルート」を魅力的に感じるのは当然のことです。
しかし、本当に附属校・系属校に入ったらその後の学生生活、そして人生は「イージーモード」なのでしょうか?
一見華やかで安心感のある附属校進学にも、知っておくべき「落とし穴」が存在します。
今回は、関西圏で特に人気の高い「関関同立」クラスの中学校進学に潜む、3つの落とし穴についてお話しします。
1.苦労がなくなるのではなく「小4〜小6に前倒し」
まずお伝えしたいのは、附属校に進学したからといって「受験の苦労が消えてなくなるわけではない」ということです。大学受験が楽になる分のプレッシャーと膨大な学習量は、そっくりそのまま「10歳〜12歳の時期」に凝縮され、前倒しになります。
関西における関関同立クラスの附属中学校(同志社香里、関西学院中等部、立命館、関西大学第一など)の入試は、言うまでもなく難関です。生半可な対策で合格は厳しいです。
小学4年生(実質的には小3の2月)から大手進学塾に通い、学校が終われば夜遅くまで塾で授業を受け、山のような宿題をこなし、6年生からの毎週末は公開模試やテストに追われる日々が続きます。
そして何より小学生の中学受験は「親の受験」であるという点です。
18歳の大学受験であれば、高校生の本人が自力で目標を立て、スケジュールを管理し、メンタルを保ちながら戦うことができます。
しかし、小学生にそれを求めるのは不可能です。 日々の学習スケジュール管理、プリントの整理、モチベーションの維持、塾通いの送迎やお弁当作り、そして決して安くない数百万円単位の塾代。
中学受験における保護者の身体的・精神的・経済的な負担は、大学受験の比ではありません。
親御さん自身が、この「過酷な二人三脚」を走り抜く覚悟を持てるかどうかが、最初の関門となります。
2.希望の学部に行けるとは限らない
晴れて附属校に合格したとしましょう。
これで大学への進学が確約され、肩の荷が下りる……と思いきや、ここで多くの中高生が直面するのが「学部選択の壁」です。
実は「エスカレーター式に大学へ上がれる」といっても、自分の好きな学部へ無条件に進学できるわけではありません。大学へ内部進学する際、法学部や経済学部といった看板学部、就職に強い人気の理系学部などは、中学・高校での定期テストの成績や、内部進学に向けた統一テストの「成績上位者」から順番に枠が埋まっていきます。
つまり、熾烈な中学入試を終えた後も、優秀な同級生たちとの「学校内での競争」は続くのです。
もし成績が振るわなかった場合、自分が全く興味のない学部に進学せざるを得ない状況に追い込まれることもあります。将来、理系の研究者になりたい、法律に関わりたいといった明確な夢があっても、成績順で枠から漏れてしまえば、他大学を一般受験するしか道はなくなります。
そして近年は、大学側のグローバル化への対応として、内部進学の必須要件に「英検2級以上の取得」など掲げる大学も出てきています。「附属に入ったから、もう一切勉強しなくていい」という認識は、入学後に大きな後悔を生む罠となります。
※また、入学後の成績が悪い場合、そもそも大学にそのままエスカレーターで上がれないなんてことも当然あります。
3.中だるみによる学習習慣消失
大学受験という強烈なプレッシャーがないことは、附属校最大のメリットですが、同時に「最大のデメリット」にもなり得ます。それが、学習習慣の完全な消失、いわゆる「中だるみ」です。
「勉強しなくても、とりあえず大学には行ける」という安心感は、成長期の子どもからハングリー精神を奪ってしまうことがあります。
定期テスト前だけ一夜漬けで赤点を回避し、あとはスマホや遊びに明け暮れる……。
こうした中だるみに陥ったまま、なんとなく大学に進学してしまう生徒が一定数存在するのも事実です。
問題は大学に入学した後です。大学の講義では、一般受験の過酷な競争を勝ち抜き、高い基礎学力と学習習慣を身につけてきた同級生たちと机を並べることになります。
ここで、内部進学組が基礎学力(特に英語や数学などの積み上げ科目)の差に苦しみ、授業についていけず、最悪の場合は留年してしまうケースも珍しくありません。
「受験勉強」という壁を乗り越える経験は、単に知識を詰め込むだけでなく、「目標に向かって努力し、自分を律する力」を養うプロセスでもあります。その機会を持たないまま大人になるリスクは、十分に考慮しておくべきでしょう。
それでも附属校を選ぶ価値とは?
ここまで厳しい現実をお伝えしてきましたが、誤解していただきたくないのは「附属校ルートを否定しているわけではない」ということです。
大学受験というペーパーテストの枠に縛られず、自分が打ち込みたいことに全力を注げる中高6年間は、何物にも代えがたい財産になります。全国大会を目指して部活動に明け暮れるのも良し、長期の海外留学に挑戦するのも良し、大学と連携した高度な探究学習やプログラミングなどの専門スキルに没頭するのも素晴らしい経験です。
大切なのは、「受験から逃げてラクをするため」に附属校を選ぶというネガティブな認識を捨てることです。
「大学受験に費やすはずだった膨大な時間を、別の価値ある活動に充てる」という目的意識を持てるご家庭であれば、附属校ルートはこれ以上ない最高の環境になり得ます。
まとめ
小学生の段階で、親と二人三脚で過酷な中学受験を勝ち抜くか、精神的にも成長した18歳で自分の足で立ち、一般受験や指定校推薦、総合型選抜といった大学受験に自力で挑むか。
中学受験にも大学受験にも、どちらのルートにも特有の試練があり、「こちらを選べば絶対に安心」という魔法の選択肢はありません。お子様の性格、精神的な成熟度、そして何よりご家庭の教育方針に合っているのはどちらか。周囲のブームに流されることなく、ぜひ一度、フラットな視点でお子様と話し合ってみてください。
最後まで読んで頂き、ありがとうございました!